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取締役の芦谷道子と大平雅子の共著論文「 小児におけるストレスの毛髪による生体評価と主観評価」が日本心身医学会第37回石川記念賞を受賞しました
取締役の芦谷道子と大平雅子の共著論文「 小児におけるストレスの毛髪による生体評価と主観評価」が日本心身医学会第37回石川記念賞を受賞しました。
7月1日に開催された第64回日本心身医学会総会ならびに学術講演会において、授与式と記念発表が行われました。
【研究の背景】
コロナ禍において子どもたちの心の問題が深刻化し,自殺者や不登校数が過去最高を更新し,児童虐待も増加の一途を辿っています。社会的に脆弱な立場に置かれている子どもたちの心理的問題に対する早期発見介入が求められますが、主観的把握には限界があり,客観的指標の開発が望まれています.
非侵襲的に中長期的ストレスを評価できる客観的ストレス評価指標として,視床下部-下垂体-副腎(HPA:hypothalamic-pituitary-adrenal)系における副腎皮質ホルモンの一種である、コルチゾール濃度(HCC:hair cortisol concentration)を活用する研究が進んでいます。またコルチゾールに拮抗する抗ストレス作用のあるDHEAや、レジリエンス指標としてDHEA/HCC比も注目されています。そこで本研究では,前思春期~思春期の時期にある一般的な小児を対象に,毛髪に蓄積したHCC及びDHEA,DHEA/HCC比を生体指標として測定し,性差や発達差、主観指標との関連性を調査しました。
【研究成果】
主観指標に性差及び発達差は見られず、生体指標にも性差は見られませんでしたが、発達段階差が見られました。中学生においてストレス指標が高まるにも関わらず、抗ストレス指標やレジリエンス指標が低い状態が示され、毛髪によるホルモン評価が、思春期の心理的危機の一端を示す可能性が示唆されました。
さらにHCCとDHEAとの間に中程度の相関が見られ、ストレスバイオマーカーとしてDHEAに注目することにも意味があると考えられました。
男子においてはDHEA,DHEA/HCC比指標と主観的ストレスとの関連性が見られ、ストレス自覚と生体の抗ストレス反応の高まりに関連があることが示唆されました。一方女子においては生体指標と主観指標との間に関連がなく乖離しており、生体指標に注目することへの意義があることが示唆されました。
【今後の展開】
今後はさらに対象を増やし、幼児や高校生などに年齢層を広げ、年齢に応じた標準値を設定する必要があるでしょう。さらに、体格などの交絡因子の検討、様々な心理指標、ストレス状況、精神病理といった状態との関連性を検討する必要があると考えます。